■会社概要
・株式会社一保堂茶舗
・住所:京都市中京区寺町通二条上ル
・創業:1717年
・事業内容:京銘茶の加工・製造および小売
・社員数:192名 男53名/女139名 正社員比率/54% 平均年齢/35.9歳
・URL:http://www.ippodo-tea.co.jp/
株式会社一保堂茶舗様は、京都に本社を構える老舗企業です。全社員数に占める女性社員比率は
7割と高めの会社ですが、以前は女性社員さんが、妊娠・出産と共に退職してしまう状況でした。
そんな中、2007年頃、育休取得者が誕生し、そこから女性社員さんが長期的に活躍される道が
出来上がって行きました。
一保堂様は、ナチュラルリンクの研修もご活用頂いておりますが、
そのあたりも含め今回は育休復帰体制構築を中心にお話を伺いました。
Q.本日はよろしくお願い致します。
御社では、男女問わず、ワークライフバランスに取り組まれたり、
働き方見直しにも最近は特に積極的に動かれているのですね―
A.そうですね、今力をいれている部分です。
以前のような働き方では企業が成り立たなくなってきた今、男性だから、女性だからではなく、
やる気と実力のある社員さんが活躍できる会社にするというのは、社長をはじめ私達も同じ見解を持っています。
ただ、ワークライフバランスと言うと、「社員に優しい施策」と捉えられがちですが、
むしろ逆だと思っています。
限られた時間の中でも、求められる成果は同じ。ということは、よりスキルアップし、
生産性をあげて仕事に取り組む必要がありますから、腹を決めてやらねば、という感じですね。
Q.なるほど、おっしゃるとおりですね。
では御社の育児休業取得についてお聞きします。
以前は、妊娠や出産を期に女性が退職されていたとのことですが、
当時の休取得者が誕生される前の、育児休業制度の整備はいかがだったですか?―
A.産休育休制度は最低限は整備されていました。
ただ女性スタッフにとっては、自分の会社がどの程度制度があるか、わからない状態だったようですし、
制度よりも風土的に「何となく取りづらい」状況だったと思います。
Q.なるほど。多くの企業様でも、『制度はあるのに辞めてしまう』という悩みを抱えておられます。
そこからいかにして脱却されたかはぜひお聞きしたいところです。
女性が育児をしながら働く環境を作るのは、お金がかかるとか、面倒くさいとか、
マイナスのイメージをお持ちの方も多いと思うのですが、そのあたりは実際いかがでしたか?―
A.確かに、取り組む前は、私もそういったイメージをがありました。
面倒くさいんだろうな、手間がかかりそうだな、また穴を埋めるためにスタッフを
新たに採用しないといけないのか、、、等ですね。
ですが実際には、デメリットよりメリットの方が多いと実感しました。
主には、
1.新たなお金はかからずに、女性活用のキャリア形成ができる
(助成金、ハローワークからの手当活用)
2.復帰後生産性の高い仕事をしてもらえる
(デッドラインがはっきりしているため、時間の使い方を考えながら仕事せざるをえない)
3.他の社員の刺激になる
4.社内のチームワークが高まる
5.社内に人材とノウハウがたまるようになる
6.新卒採用の際、事例として伝えることができ、採用にも有利になる
7.コストが削減できる
8.社内のモチベーションアップになる
があげられると思います。
特に、整備するのに費用がかかると思っておられる企業は多いようですが、
最初の育休取得者にはまとまった助成金が出たり、ハローワークからも手当金がでるので、
コストはほぼかかりません。
それよりも、せっかく育った戦力の社員さんが、毎年辞めていくデメリットの方や
そこでの費用ロスの方が大きいので、ここに取り組まない理由はないと思いますね。
Q.なるほど、ありがとうございます。
とはいえ、社内に前例がない中でその環境を作ることは簡単ではなかったと思うのですが―
A.そうですね。前例がないので、本当にできるのかなという不安は大きかったです。
ただ、育休に入る女性スタッフがすごく優秀で、上司の私としても、
辞めてもらっては困る!と思っていました。
何とか続けられる状況を創るために、やらざるを得ない状況だったという感じです(笑)
そうこうしているうちに、お腹のあかちゃんは大きくなっていきますし、
手を打たないとどうしようもない、だから何とかしよう!という形で、色々考えて取り組みました。
まず取り組んだことは、
1.今いる人材で育休で抜ける女性スタッフの穴をカバーする為の準備
(人手をいれるとまたお金や育成の手間がかかるため)
・業務仕分け(この仕事は本当に必要か?)
・妊娠報告以降はスクランブル体制で他の人がカバーしあう
2.制度の規定
・産前特別休業、産前休業、産後特別休業などの独自付加規定を制定
3.コミュニケーションを取りながらお互いの意向を確認し話し合う
・復帰後もやりがいのある仕事をしたい人、サポート役に徹したい人、それは人それぞれ。
制度で一括りにし、解決できるものではない。
でした。
走りながら考える形でしたが、これをきっかけにして、
普段の業務の棚卸しや効率化を行うことができて、後々考えても大変よい結果になりました。
またはじめは大変そうと思っていたのですが、やってみると意外と何とかなるものですね。(笑)
Q.意外となんとかなる(笑)。当社も専務が妊娠、出産した時、同じように思いました(笑)
では、実際に育休中はどのようなやり取りをされていましたか?―
A.
1.会社の動きを情報提供、女性社員からも意見を聞ける仕組み
・ブランクに対する不安が想像以上。社内報、定例会議の議事録、組織図の送付
2.チームで仕事を分担しカバー
・引き継いだ業務は、それぞれ「兼務」でカバー→改善・効率化・共有化を図る
3.復帰までのトライアル期間を設ける
・本人提案で、復帰希望日の1.5ヶ月前から「週3日、3〜5時間」のトライアル出勤を導入
4.みんなで「あなたの復帰を待ってるよ」という環境づくり
・休業前の担当業務から外さない等
を意識していました。
これもやりながら分かったことですが、育休中にこちらが「子育てに専念してほしい」と
遠慮して連絡を取らないことが、本人にとっては大きな不安になってしまうことを知りました。
これは次回にも必ず活かして改善していきたいと思っています。
また、上司の理解が大きく影響することも痛感しました。
いくら制度が整っていても、会社側が推進しようとしても、直属の上司の考え方で
その部署は決まってしまうので、やはり上司が理解する姿勢や相談にのってあげるということがすごく大事だと思います。
Q.上司の理解は必要不可欠ですね。
当社も専務が休んでいた時、「会社から抜けて初めて、会社の変化の速さに気づいた。
自分が復帰して果たしてついていけるか不安だった」と言っていましたので、
定期的な情報交換はとても大切だと思います。
では実際に復帰後はどのようにカバーされているのですか?―
A.復帰後心がけているのは、
1.チームワークの強化
・周囲のメンバーが理解、応援する気持ちになること
2.急に休んでも周囲がその人の仕事をわかる状態にしておくこと
・いつ保育所に呼び出されるか、いつ自身が体調を崩すか分からない
3.特別扱いはしないが、休んだり正規の形で働けないという認識を持つ
・その人の経験と強みが活きる仕事を与え、自由度を担保する
・「いなくちゃ困る」ではなく、「いてよかった」というスタンスでチームも理解する
4.メンタル面のフォロー
・出産後は精神的に不安定になったりする。真面目な雑談は常に必要。
という部分です。
とにかく制度ではなく、ソフト面でいかに協力し、メンタルをフォローして進めるかを心がけています。
これらのことは、自分たちも試行錯誤しながら作ってきたのですが、その中で気づいたことがありました。
それは、会社、本人、家族が三位一体になることが大切だということです。
会社側も理解して推進しないといけないですが、女性スタッフ本人の努力も必要です。
やはり日頃から、「辞めないで戻ってきてね」と言われるような、
周囲から必要とされる働き方をしておくことが大切だと思います。
また身近な家族が、女性が働く上で理解を示すこともとても大切ですね。
みんなが意識を高め、三位一体で協力しあう。これが一番大事なことだと思います。
Q.本当に、三位一体が大切ですね。
職場でも家庭でも、全てはチームワークなのだと思います。
御社では、以前より当社の研修もご活用頂いておりますが、実際に受講されていかがでしょうか?―
A.当社では、女性部下を持つ上司対象のセミナーと、女性社員対象のセミナーに参加させて頂いていますが、
まだまだ努力しないといけないと気付きの多いセミナーです。毎回客観的な自社の課題と強みを知ることができます。
また講師の方から、女性の視点から見た意見を聞くことで新たな発見があったり、
同じグループに女性がいらっしゃると、普段は聞けない女性社員の本音も聞けるので勉強になりますね。
女性スタッフも、普段異業種の女性と交わる機会がないので、大変刺激を受けて帰ってきています。
社内では得られない気づきがあることが嬉しいですね。
Q.ありがとうございます。これからも効果的な研修を提供していけるよう私達も頑張って参ります。
では最後に、以上を踏まえて、育休復帰について今後取り組まれる予定のこと等ございましたら教えて頂けますか?
A.最初からうまくはいかないので、やりながら改善していくことが大切です。
現在は、今までの経験を踏まえて、
1.育休スタッフのカウンセリングができるようにする
2.ママさんの定期報告会を開催する
3.受け入れ部門長への教育
4.育休取得女性スタッフとのすり合わせ面談
等を行なっていきたいと考えています。
実際に働くママスタッフが誕生して思うのですが、母親のパワーはすごいです。
育児と仕事を両立するのは想像以上に大変だと思いますが、それをこなしている人は、
すごく生命力があってエネルギーに満ちています。
そのパワーが、周囲のスタッフに大変良い影響を与えています。
また、こういった取り組みを通して、更に男女問わず多様な人材を活かして
成長できる企業になっていきたいと考えていますので、今後も頑張って参ります。
最後に―
男性女性ではなく、多様な人材が活躍できる会社づくり。
今後少子高齢化による働き手の減少や、介護世代の増加等を考えると、
重要な経営戦略の一つだと思います。
そこにいちはやく取り組まれ、形にしていかれている一保堂茶舗様は大変素晴らしいですし、
ぜひ他の企業様にとってのロールモデル企業として今後も進んでいって頂きたいなと思います。
本日はありがとうございました。